佐賀県内でのドローン利活用促進と未来を考える。|カンファレンスレポート
2022年11月、ドローンの利活用を進める企業・団体・自治体向けにカンファレンスが行われました。
レベル4飛行実現への取り組みに関する基調講演や、佐賀県内でドローン利活用を進める有識者によるトークセッション、参加者同士の交流会など内容は盛り沢山。ドローンの未来を考える上でとても有意義な時間となりました。
開催情報
スケジュール
登壇者プロフィール
基調講演「ドローンの現状と今後の展望~レベル4飛行の現実、さらにその先へ~」
内閣官房小型無人機等対策推進室 内閣参事官 小熊 弘明 氏
1997年運輸省入省。交通バリアフリーや地域交通などの公共交通政策に携わり、外務省在スペイン日本国大使館や、国土交通省航空局安全部安全企画課での勤務を経て現職に至る。
講演「ドローン産業利用の市場・技術動向」
Worldlink&Company 執行役員 CTO
京都大学東南アジア地域研究研究所連携准教授 渡辺 一生 氏
農業工学/衛星画像分析/地理情報解析の専門家。
2014年から地域環境の分析にドローンの活用を開始する。
ミャンマー唯一の農業大学にてドローンを使った生育モニタリング講師に就任。
京都大学で准教授を勤めながらWorldlink&Company 執行役員としても活躍している。
トークセッション「佐賀のドローン利活用促進に向けて」
株式会社オプティム 岸山 洋介 氏
農業分野でのドローン利活用をメインに、ドローンに関するソフトウェア開発を行う。
株式会社EWMファクトリー 白石 弘宜
自治体や民間企業に向けたドローン講習をメインに、安心安全な運用の手助けを行う。
多久市まちづくり協議会かつやく隊隊長 笹川工建 笹川 俊一 氏
住宅点検でのドローン活用をきっかけに、ドローンを使ったまちづくりに取り組む。
「国と自治体との連携を強化し、空の産業革命を実現する」
基調講演「ドローンの現状と今後の展望~レベル4飛行の現実、さらにその先へ~」
内閣官房小型無人機等対策推進室 内閣参事官 小熊 弘明 氏
空撮や農業分野を中心に、急速に拡大するドローンのサービス市場。今後は物流・インフラ点検・警備・災害救助などの分野において活躍が期待されています。国の取り組みはもちろん、ドローンの活躍の場を広げるためにも自治体の協力が必要だと考えています。
空の産業革命実現に向けたロードマップ2022
ドローンに関する政府の取組を工程表としてとりまとめたロードマップ。
2022年のレベル4飛行実現後の未来を見据え、以下3つの柱を中心にまとめています。
- 環境整備:レベル4飛行の実現に向けた機体認証制度と操縦ライセンス制度、ドローン運航管理システムなど
- 技術開発:機体開発、運航管理技術の開発・実装など
- 社会実装:物流、インフラ・プラント点検等のガイドライン作成
また、地域や自治体が行う取り組みを全国にネットワーク化していくことも視野に入れ、以下を次世代空モビリティの社会実現プロジェクトとしています。
- レベル4に対応した試験方法の標準化により、「機体の安全性向上・高性能化」を進め、ドローンの活用の幅を拡大
- 「運航体制の省人化」によって、ドローン利活用のポテンシャルをさらに引き出す
- ドローンと空飛ぶクルマ、航空機が空域を共有するための技術の確立
ドローンの利活用促進に向けた技術開発
安心安全な国産ドローンの製品化に向け、ACSL「蒼天」の開発と販売が開始されています。「蒼天」は重量1.7kgほどの小型ドローンで、暗号化された飛行記録情報や通信情報が国内サーバクラウドに保存されるという厳重なセキュリティ対策が特徴です。
また、汎用性の高いドローンの利活用に向けた技術検討会では、「対抗性」「高ペイロード」「長時間航行」についての性能規定化が行われています。性能規定化において、現場の具体的なニーズを把握するため国土交通省職員の技術訓練や実証実験が進められており、令和4年度末を目途にユースケースごとの性能仕様が定められる予定です。
ドローンの利活用の促進・社会実装に向けた具体的な取り組み
物流
政府は「ドローン宅配」の実装に向け、以下3つの具体的ユースケースの実証実験を支援しています。
- 過疎地・離島物流
- 医薬品物流
- 農作物物流
これまで蓄積されていた実証実験の事例が追加された「ドローンを活用した荷物等配送に関するガイドラインVer.3.0 」や、より安全な品質管理が求められる「医薬品配送に関するガイドライン」を中心に物流分野でのドローン利活用が推進される予定です。
スマート農業
2023年度に農業用ハイスペックドローンの市販化することを目標に、セキュリティ確保と利便性向上を中心課題として、機体及び利用技術の開発が行われています。
農業だけでなく林業や水産業に関しても関連予算を要求し、資材運搬用ドローンの導入や、ドローンを活用した低コスト・効率的な内水面水産資源被害の防止策開発を進めています。
ドローンを活用した災害対応
令和4年6月、中央防災会議によって防災基本計画が改訂されました。具体的には、災害時の運搬調整航空機に「無人航空機」が追加され、ヘリコプター等の有人機と相互に調整を行うことが明確化されました。
今後は、ドローンを用いた災害対応や避難訓練が可能になります。
ドローンサミット
ドローンの社会実装を進めるためには、各自治体における事業形態の形成や社会受容性の拡大が必要です。自治体の取り組みを全国に発信することで自治体間の連携を強化し、ドローンの社会実装を加速させることを目的とした「ドローンサミット」。第一回は令和4年9月に兵庫県で開催。
北海道、福島県、長崎県などが集まった自治体会議だけでなく、フードデリバリーのデモンストレーションなど屋外プログラムも実施されました。
「社会情勢・社会課題と密接に関係するドローン。省庁、産学、地域の垣根を超えれば、イノベーションは加速する。」
講演「ドローン産業利用の市場・技術動向」
Worldlink&Company 執行役員 CTO
京都大学東南アジア地域研究研究所連携准教授 渡辺 一生 氏
ドローンは社会情勢・社会課題と密接に関係するものに成長しています。その成長過程で、「リスクへの捉え方のギャップ」や「グローバルの舞台で日本産のドローンはどう戦うか」など、課題は増えていくばかりです。これからのイノベーションには何が必要なのか、具体事例を交えてご紹介します。
国内外でのドローン市場規模
世界のドローン関連市場規模は4.3兆円、平均成長率は13.8%と予想される中、アジア地域は近年最も著しい成長を遂げています。
分野別に見ると、世界ではソフトウェア分野が大きく成長しているのに対し、日本国内ではサービス分野が最も成長しています。具体的には、インフラ点検と農業が大半を占める一方で、今後は物流分野の成長が予測されています。
ドローンの産業利用は今後も拡大し続ける
「空撮目的の利用」から「データ取得目的の利用」へ、また「飛ばして楽しむ利用」から「人の代わりに仕事をさせる利用」というように、ドローンの産業利用は今後も拡大し続けます。拡大に伴い、人の立ち入りが難しい現場で正確なデータを定量的に取得したり、軌道力を活かした機体が求められています。
3つの具体事例
- 物流
長崎県五島列島にて実施された、「離島への医薬品配送」に関する実証実験。全日本空輸株式会社(ANA)に対して機体提供と現地サポートを行い、バッテリー無交換、往復32kmのフライトを計14回実施しました。将来的には、オンライン診察・服薬指導後、ドローンでの医薬品配送という、医療の完全在宅受診が可能になります。 - 測量
建設・土木分野の少子高齢化の問題を受け行われた「土地測量」に関する実証実験。ドローン活用により作業時間の短縮、データ量の密度向上、繊細な情報取得が期待されます。 - インフラ点検
ドローンを使用し、上空から地形情報を取得する「UAV測量」に関する実証実験。
これまでのインフラ点検では、味場の設置やロープアプローチなど膨大な時間やコストがかかっていました。ドローンを活用することで安全性の向上、誰でも同じ精度のデータが出せることが期待されます。
ドローンは社会情勢・社会課題と密接に関係するものに成長しています。今後市場規模や利用分野が拡大する上で、省庁の垣根、産学の垣根、地域の垣根を超えてイノベーションを加速する必要があります。
「行政、民間、県民の垣根を超えたドローン利活用」
トークセッション「佐賀のドローン利活用促進に向けて」
株式会社オプティム 岸山 洋介 氏
多久市まちづくり協議会かつやく隊隊長 笹川工建 笹川 俊一 氏
株式会社EWMファクトリー 白石 弘宜
佐賀県内でドローン利活用に取り組む3人の有識者によるトークセッション。ドローンがこれからどのように発展していくのか、ドローン利活用において、行政に期待することなど、これまでの経験談を交えたお話をうかがいました。
2022年12月5日以降の航空法改正後、ドローンにとってどんな時代が訪れるか
株式会社オプティム 岸山 洋介 氏
「人とドローンのシェアリング時代」岸山 洋介 氏
ドローンにも様々な種類があり、カスタマイズできるものも登場しています。今後実装化が進んでいけば、個人でドローンを保有するのではなく、「シェアリング」が進んでいくのではないでしょうか。現状、行政・民間の間でデータの受け渡しには制限がありますが、そういった制限を見直し、市町横断型で「シェアリング」を進めていければ良いと思います。
また、ドローンの自動化は今後も進んでいくと推測します。自動化が進んだ後も、手動飛行技術の習得を怠ってはいけません。飛行中のトラブルは予測しにくいもの。対応力を付けるために人の技術力を磨いていく必要があるでしょう。
「ドローンの飛行とライフスタイルがリアルに結びついた時代」笹川 俊一 氏
私がドローン配送に向き合う中で必要だと感じるのは、利用者目線のリアルな仕組み作りです。3Dスキャンしたスーパーをスマホで確認し、ECサイト上で注文できる仕組みに取り組んでいます。そういった取り組みを広げることで、ドローンがより利用しやすい環境作りに繋がるのではないでしょうか。
また、一家に一機のドローンを持つというよりも、機体や土地のシェアリングが進んでいくと推測します。ドローンが上空を飛行することを前提とした土地の契約や、災害に備えて測量データを記録するなどの取り組みも、ドローンを環境整備する上で重要になってくるのではないでしょうか。
「ドローン自動化の時代、それに伴うリスクもある」白石 弘宜
レベル4飛行の実現以降、ドローンに関する作業はほとんど自動化されていくと思います。これまで複数人でこなしていた現場が、どんどん省人化されていくでしょう。そこで懸念されるのは、トラブルの際に個人の責任や負担が重くなるということ。自動化と並行して、トラブルの原因や解決策を明確にできるシステム作り・教育体制を整える必要があると思います。
社会実装を佐賀県内で行う上で、期待すること
多久市まちづくり協議会かつやく隊隊長 笹川工建 笹川 俊一 氏
「原子力発電所や空港など、社会実装しやすい環境が揃っている」岸山 洋介 氏
佐賀県は、上空をドローンが飛ぶことに抵抗が少ない県だと感じています。長時間飛行可能なドローンの開発がスムーズに進められたのも、そういった県民性が影響していると思います。また、人口密集地や原子力発電所、空港など社会実装が進められる環境が揃っているので、社会実装における活躍の場として期待しています。
「多久の発展という枠組みを超え、県一丸となって取り組みを進めていく」笹川 俊一 氏
佐賀県はバルーンが飛ぶ県ということで、ドローンに対する抵抗も少ないと感じます。実際に他県からも「ドローンが飛行しやすい環境だ」という意見を耳にしました。このカンファレンスを皮切りに、ノウハウを共有し合い、行政と連携することで県全体がドローンの取り組みを進めていくことを期待します。
「人と地域の親和性」白石 弘宜
佐賀県の特徴は、土地の特徴を活用に結びつけやすい事だと思います。海に漁師が多く山に農家が多いなど、目的と手段がスムーズに結び付いた環境が整っています。
地域との連携がしやすい親和性が、ドローン活用を加速させていくことを期待しています。
ドローンのビジネス化にあたり、必要となること
株式会社EWMファクトリー 白石 弘宜
「ドローンに何が求められているかを考えると共に、他者の理解を深め続けること」岸山 洋介 氏
あくまでドローンは手段として考えており、導入しただけでビジネス化出来るものでもありません。何が求められているのか・何に困っているのか、各業界から細かくヒアリングしています。ドローン技術が進歩したのちも、利用者や近隣住民の理解を深め続けることで社会実装に繋がると思います。
「ニーズを拾い上げ、それに応える体制を整えること」笹川 俊一 氏
今後、ドローン事業を本格化していく上で、ニーズを拾い上げ、応える体制を整えることが大切です。採算がとれないものほど、緊急性が高い場合があります。そういったものをカバーする仕組み作りが必要です。また、ドローンはあくまでも手段にすぎないと考えています。活用現場も、顧客のニーズを拾い上げるきっかけになりやすいので、ちょっとしたニーズを見逃さないことが大切です。
「ドローン活用に関する県民のアイデアを拾い上げ、いかに広げるか」白石 弘宜
何気ない小さなアイデアや疑問点をドローンで解決することで、身近な活用につながると思います。そういった小さなアイデアを見つけるには、地域課題を抱えている人と会社との出会いが必要なのではないでしょうか。アイデアが形になるという実績を広めるために、今回のイベントのような情報交換の場は必要だと思います。
ドローン利活用において、行政に期待すること
「県全体で、ドローン利活用に取り組めるような支援体制」岸山 洋介 氏
ドローン利活用に取り組む民間企業に向けた支援体制を期待しています。県内企業やパイロット一丸となって新しいドローン事業にチャレンジできれば、ドローン業界はもっと面白くなっていくのではないでしょうか。
「自治体だけでなく国全体で、ドローン市場を広げていこうという取り組み」笹川 俊一 氏
私はアイデア次第でドローンの市場は広がる、ということを身をもって感じている。ドローン市場が発展途上になる中で、誰もがチャレンジできる仕組みづくりや国としてドローン活用にチャレンジする姿勢を期待しています。
「取り組みから得た知見の提供と、人材育成」白石 弘宜
小さなアイデアを形にするための支援体制を期待しています。取り組み後は、そこで得た知見を今日のようなイベントで共有することで、行政にとってもプラスになるのではないでしょうか。それに並行して人材育成に力をいれていければ、佐賀県発の取り組みが出来るのではないでしょうか。。
参加者の声
利活用サービス運営者 福岡県
配送実用化がどのように進んでいるかが気になり、参加しました。「佐賀県はバルーンが飛ぶ県ということで、ドローン飛行に対しても抵抗がすくない」というお話を聞き、羨ましく思いました。
自治体・公共団体関係者 佐賀県
イベントを通して、県内の自治体や事業者が一丸となってドローン活用を進めていくことの重要さを痛感しました。そのためにも、今回のような情報交換の場を継続して行って欲しいです。
自治体・公共団体関係者 佐賀県
渡辺先生による講演「ドローン産業利用の市場・技術動向」がとても興味深かったです。私自身、ドローンについての知識はまだ浅いのですが、国内外のドローン市場規模やこれからの課題についてとても分かりやすく聞かせていただきました。
行政と民間、県民が一丸となればドローン利活用は広がりつづける
今回のカンファレンスでは「国の取り組み」や「国内外の市場」、また「佐賀県の取り組み」等の観点から、ドローンの利活用促進と未来を考えました。
全ての観点に共通していたのは、「行政、民間、県民が垣根を超え、連携を強化していく」ということ。それぞれが一丸となってドローン利活用に取り組み、その成果を今日のような場で共有することで、ドローン利活用は広がり続けるでしょう。